Mama Rules Everything 〜ママには絶対逆らえない

超人委員会は人使いが荒い。正義超人界に蔓延していた平和ボケのお陰で人手不足というのもあるが、それを差し引いても超人に、特に一番下っ端の若手共に人権なんぞご立派な物があるとは微塵も思っていないことは確実だろう。これはここ一ヶ月程でTeam-Ahoが再確認した結論である。この大阪での一ヶ月の任務が命ぜられたとき、ここまでこき使われるとは思っていなかった四人組は自分たちの甘さも再確認していた。最初の一週間は任務のぐち、次の週は超人委員会に対する（小声での）罵詈雑言、三週目は実行しても無駄だと判っているけれど労監に訴えてやると顔を合わすたびに言い合い、最後の週は無駄な話をする気力すらなく、されど心の奥底では今、事が起これば確実に残虐超人になれるという物騒な思考を脳の奥に押し込めた不気味な静けさの中で任務を終えた。その後四人は早急に提出を求められた報告書を提出したその足で肉体疲労より精神疲労を回復させるべく夜の大阪に繰り出して行った。もちろん、案内役はキッドである。繰り出そうとした時点ですでに夜もかなり遅かったことから、セイウチンは一応明日にしようと言ったのだが残り三人に結局押し切られてしまっていた。そしてこの数時間後、セイウチンの提案を呑むべきだったとキッドは思いっきり後悔することになる。

町を流しつつナンパの相手を物色中のキッドの視界に見慣れたなにかがひっかかった。こんな所にいるわけないよな、と思いつつ、もう一回見直した…のが悪かったのか。それともなにがなんでも目立つ格好をしている四人組なのが悪かったのか。海を越えた所にあるはずの赤茶の天然パーマ頭がキッドの方に向かってくる。

「いや〜、キッドやないの〜！」
「ママ！」
思わず普段より一オクターブ上の声でキッドは叫んでいた。
「ママ、なんで日本に来ているんだよ！」
「高校の同窓会。急にこられることになってん。」
「だったらなんでメールなり電話なり手紙で一言言っておいてくれないんだよ！！」
「メールも電話も手紙もやったけどな〜んの返事もなかったやん。多分、任務やろうと思ったけれど、ママ、ちょっと寂しかったわぁ。」
ナツコはすでに多少「出来上がった」状態である。とはいえ
「…ところであんたらこんな時間にこんな所でなにやってん？」
流石母親。おまけに遊びすぎて危うく命を落としかけた悪ガキの母親である。未成年の身分で夜遊び＆ナンパしているところを親に押さえられるのは楽しいとは対極に位置するものである。キッドは口ごもり、万太郎とガゼルにセイウチンは罰の悪そうな顔をしていた。ナツコの機嫌にも低気圧の兆しが見え始める。

「ナツコぉ、それアンタの自慢の息子さん〜？旦那そっくしやん！うわ、近くで見るとホンマにでっかいなぁ。この子らホンマに十代なん？テレビで観るより男前やな〜〜。」
救いの神は好奇心むき出しなナツコのお友達連であった。新世代正義超人が四人もいるのに加えてただでさえ珍しモン好きの関西人に酒が入ればどうなるかは一目瞭然。さらに酔っぱらいは強い。結果、四人はナツコの追求からは逃れることができたものの、その代償としてヨッパーズに完全包囲されて身動き出来なくなった。挙げ句に悪魔のような一言が
「うちら今から二次会行くねんや。おねーさん達が奢ってあげるから一緒に来ぉへん？」
「ええ〜、奢るやなんて。この子らちゃんと自分でもう稼いどるんよ。甘やかしたらあかんあかん。」
「ええやんええやん。体張って平和守ってんのやからこのぐらいのご褒美。な？君ら来るやろ？こんな美人の誘いは断れへんよね？」
結局、自分達の年齢を三倍（もしくはそれ以上）にしたくらいのお嬢さん達に逆ナンパされた四人組は夜の町中へと連行されていった…。

数時間後、普段はそんなことは無いのだが、久しぶりに友達に会ったこと、偶然にそして久しぶりに息子と会ったことで浮かれて飲み過ぎ、店をでるなり足許がよたったナツコを交替で支えながらキッドとキッドの部屋に元々転がり込む予定だった三人は帰る羽目に陥った。救いは連れて行かれた店がかなり通な人でなければ知らないような隠れた良店、それもキッド達若造だけでは到底足を踏み入れることが出来ない様な大人使用の店であったことと奢って貰えたことくらいだろうか。もちろん、酒類は（そこの店におかれていた銘柄を考えると極めて残念だが）一切飲めなかったし薦められても飲むような馬鹿な真似をするほど阿呆ではなかった。

翌朝。といってもすでに正午もとうに過ぎ去った時刻だったのだが。床やソファの上でてんでバラバラに討ち死に（キッドは自分のベッドを母親に譲った）していた四人は美味しそうな匂いで目を覚ました。食卓には五人前（正確には成長期の超人四人前と人間女性一人前）の食事がかき集めた食器に盛られていた。久しぶりの手作りの味に心慰められながらすでに昼食とも呼べないような気のする朝食をみんなで談笑しつつ食べているときに新たな災難がキッドに降りかかった。
「キッド、今度の任務ってこの子らと一緒にテキサスやろ？近いし任務後の休暇はうちに帰ってくんねんろ？せやったらみんなでうちに泊まってかへん？」

キッドが食べ物を気管に入れてむせかえる。
「え？それって僕たち、キッドの家に泊めてもらっていいってことなんですか？」
喋れないキッドを後目に万太郎が身を乗り出す。万太郎の目が好奇心で光り輝いているのがキッドには心底忌々しい。 「そうや。」
「それは光栄です。是非ともお邪魔させてもらいます。」
「ザ・テリーマンの家に泊めて貰えるだなんてワシ、感激です。」
「テリーもキッドのお友達とかキンちゃんの子供に会えるって絶対喜ぶよ〜。」
「ママ、俺の休暇の過ごし方まで勝手に決めるなよ！ついでになんで俺達の次の任務のことまで知ってるんだよ！」
「あんたちゃんと超人委員会の規約読んでへんやろ。HF卒業生でも各出身国および任務地で成人年齢に達していない超人は緊急事態を除き未成年者扱いとするって書いてあるで。つまり、あんたらの任務とかはよっぽど特殊なもんや無い限り、親に『お宅のお子さんをこれこれこういう任務に就かせますがよろしいですか』っちゅーお伺いが来るんよ。で、親はそれを読んで署名して送り返すんよ。」
「なんだキッド。そんなことも知らなかったのか。」
「だ・ま・れ・鹿。」
「キッド！みんな泊まりに来るんでええんな？」
「はい！お邪魔します！！」×三人
一瞬、次の任務が終わり次第、三人を残してさっさとメキシコの国境を越えて一人でバケーションに行ってしまえとの悪魔の囁きがキッドの心に聞こえてきた…。